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【シリーズ第3回】ユング心理学で読み解く『進撃の巨人』


ユング心理学で読み解くアニメキャラクターシリーズ③

【シリーズ第3回】ユング心理学で読み解く『進撃の巨人』:自由への渇望が呼び覚ます「破壊の影」

シリーズ第3回は、全世界に衝撃を与えたダークファンタジーの金字塔『進撃の巨人』です。

この作品は、ユング心理学における「光と影の逆転」や「集合的無意識の暴走」を読み解く上で、これ以上ないほどドラマチックな素材です。

『進撃の巨人』という物語を象徴する言葉は「自由」です。しかし、その自由を求める戦いは、最終的に世界を焼き尽くす「地鳴らし」という未曾有の悲劇へと繋がりました。

主人公エレン・イェーガーの歩みは、ユング心理学の観点から見ると、「英雄が自らの強大すぎる『影』に飲み込まれ、怪物へと変貌していくプロセス」として解釈できます。

画像:進撃の巨人 THE LAST ATTACK公式サイト 壁紙ダウンロード

1. エレン・イェーガー:英雄(ヒーロー)から「破壊的な影」へ

物語の序盤、エレンは典型的な「英雄(ヒーロー)」のアーキタイプでした。壁の中に閉じ込められた人類を救い、外の世界という「宝」を手に入れるために巨人に立ち向かう姿は、王道の成長物語そのものでした。

しかし、ユングは「光が強ければ強いほど、その背後に落ちる影もまた濃くなる」と説きました。

エレンにとっての「自由への純粋な渇望」という強烈な光は、やがて「自由を奪うもの(外の世界の人間)をすべて駆逐する」という、制御不能な「影(シャドウ)」へと反転します。

終盤のエレンは、もはや光を失った「影そのもの」として描かれます。これは、理想を追い求めすぎるあまり、自分の中にある負の側面(破壊衝動)をコントロールできなくなった精神の危うさを象徴しています。

2. ライナー・ブラウン:もう一人の自分という「影」の投影

エレンにとってライナーは、単なる敵ではありません。エレン自身が「俺はお前と同じだ」と語ったように、ライナーはエレンの「鏡としての影」です。

  • ライナー: 正義と信じて壁を壊し、罪のない人々を殺した「加害者」。
  • エレン: 復讐のために海を渡り、同じように罪のない人々を殺す「加害者」。

ユング心理学では、自分が一番認めたくない弱さや罪を相手の中に見て激しく嫌悪することを「投影」と呼びます。エレンがライナーを激しく憎んだのは、彼の中に「いつか自分も犯すであろう罪」を無意識に見ていたからかもしれません。この二人の対峙は、自分の醜い側面をどう認め、引き受けるかという壮絶な自己対決なのです。

3. ミカサ・アッカーマン:鎖であり、救いでもある「アニマ」

ミカサはエレンにとって、この残酷な世界で自分を繋ぎ止める唯一の「アニマ(内なる女性性)」でした。彼女はエレンを全肯定し、守り抜こうとします。

しかし、このアニマの「慈愛」は、時にエレンの「自立(個性化)」を妨げる過保護な母性としても機能します。エレンがミカサに「お前が大嫌いだった」と偽りの言葉を投げたのは、彼女という救いの鎖(アニマ)を切り離さなければ、自分の破滅的な宿命(影)を完遂できないと悟ったからではないでしょうか。

最終局面で、ミカサが自らの手でエレンを討つ決断。それは、肥大化しすぎた影を葬り、世界と自分の精神に最後の一貫性を取り戻すための、最も悲しい「自己統合」の儀式だったと言えます。

4. 始祖ユミルと「道」:集合的無意識の牢獄

すべてのエルディア人が繋がっている「道」の世界。これはユングが提唱した、全人類(あるいは特定の民族)が共有する心の底流「集合的無意識」を視覚化したものです。

その中心にいる始祖ユミルは、神のような全能性を持ちながら、王への服従と愛に囚われ、二千年間も孤独に震えていた「傷ついた子供(チャイルド・アーキタイプ)」でした。

エレンがユミルに「お前は奴隷じゃない、神でもない。ただの人間だ」と語りかけたのは、民族全体の無意識に根ざした「服従の呪縛」を解き、精神を解放しようとする試みだったのです。

自由の代償と「個性化」の果て

『進撃の巨人』は、自分の中の「影」を無視して理想だけを追い求めることの危うさを、これ以上ないスケールで描き出しました。

エレンは個性化の旅の果てに、自分自身を「歴史の生贄」に捧げることでしか、愛する者たちに自由を与えることができませんでした。彼の最期は、私たちが自分の「影」と向き合うことを怠ったとき、その影がいかに巨大な代償を要求してくるかを教え、私たちの心に深い傷痕を刻み続けています。

第3回、いかがでしたでしょうか。エレンの変容を「影」として読み解くと、あの切ないラストシーンがまた違った意味を持って迫ってきませんか?

次回、シリーズの最後を飾るのは、これまでの戦いと悲劇を優しく包み込み、新たな「個性化」の形を提示してくれる『葬送のフリーレン』です。お楽しみに。

 
【参考資料】
諫山 創 著『進撃の巨人』(2009-2021)講談社
進撃の巨人 作品公式サイト劇場版「進撃の巨人」完結編THE LAST ATTACK 公式サイト

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