先日、本棚を片付けていてユングの「元型論」をみつけて思い出したのですが、マンガ、アニメ、ゲームが好きな私としては、いつか機会があれば、アニメのストーリーをユング心理学で解説したものを、どこかで書きたいと思っていました。なので、ぜひ、この機会に書かせていただきます。
が、その前に、「なんで、アニメとユングが関係あるの?」という方もいらっしゃると思うので、ユングの元型論を簡単に解説しておこうと思います。
あなたは、「初めて見た映画のヒーローに、なぜか懐かしさを感じた」とか、
「初対面なのに、なぜかこの人は『導き手』のような気がする」といった
そんな不思議な感覚を覚えたことはありませんか?
スイスの精神科医C.G.ユングは、私たちの心の奥底には、時代や国境を超えて人類が共有している「心の設計図(DNA)」が眠っていると考えました。それが今回ご紹介する「元型(アーキタイプ)」です。
1. ユング心理学の基礎:心には「人類共通の舞台」がある
ユングは、人の心は大きく分けて3つの層でできていると考えました。
- 意識: 今、あなたが自覚している「私」。
- 個人的無意識: あなた個人の経験や、忘れてしまった過去の記憶。
- 普遍的無意識: 人類が数百万年の歴史の中で積み重ねてきた、共通のイメージの地層。
この「普遍的無意識」こそが、全人類が共有する心の舞台です。
なぜ世界中で似たような物語が生まれるのか?
なぜ、遠く離れた日本と欧米で、似たような「英雄の冒険」や「知恵を授ける老人」の物語が生まれるのでしょうか。それは、私たちの心の中に、あらかじめ「普遍的な物語の配役(キャスト)」が決まっているからです。
元型とは、いわば、「まだ中身の入っていない、心の配役リスト」。
時代や文化によって衣装や名前は変わりますが、その「役割(キャスト)」そのものは、人類共通の資産として私たち全員の心に組み込まれているのです。

画像:イラストAC ぶたどん
2. 心の劇場を彩るキャストたち:主要な元型一覧
私たちの人生という劇において、あらかじめ用意されている「代表的なキャラクター設定」を整理しました。どうですか?聞いたことのある元型名がいくつかあるのではないでしょうか?
| 元型名 | 物語における「配役」 | 光:ポジティブな面 | 影:ネガティブな面 |
| ペルソナ | 社会で演じる「役目」 | 社会適応、礼儀、円滑な関係 | 本当の自分の喪失、過度な抑圧 |
| シャドウ(影) | 隠された「悪役・ライバル」 | 生命力の源、意外な才能 | 劣等感、他人への投影・嫌悪 |
| アニマ/アニムス | 魂を導く「異性のパートナー」 | 直感、共感、決断力の調和 | 情緒不安定、頑迷さ |
| グレートマザー | 全てを包む「慈母」 | 慈愛、育成、保護 | 束縛、過干渉、停滞 |
| 老賢者 | 知恵を授ける「師匠」 | 導き、精神的支柱 | 独善、教条主義、冷酷な支配 |
| トリックスター | かき回し役の「いたずら者」 | 停滞の打破、変化、ユーモア | 混乱、無責任な破壊、嘘 |
| 永遠の少年/少女 | 可能性を追う「永遠の子供」 | 若々しさ、理想、柔軟な発想 | 現実逃避、責任回避、依存 |
| 英雄 | 困難を越える「主人公」 | 勇気、意志の強さ、自立 | 傲慢、暴力、自己過信 |
| セルフ(自己) | 劇場の「総監督」 | 自己実現、心の平安 | (圧倒的力による自我の崩壊) |
3. なぜ「心の配役」を知ると人生が楽になるのか?
元型の知識を持つことは、自分の人生という劇を客観的に眺める「観客席」を手に入れることに似ています。
「投影」のカラクリに気づける
「あの人の行動が、たまらなく許せない!」と感じる時、あなたは相手に自分の中の「悪役(シャドウ)」を配役してしまっているのかもしれません。それに気づくだけで、相手に振り回されず、「これは私の中の配役の問題だ」と冷静に対処できるようになります。
心のバランスを取り戻せる
「社会人としての自分(ペルソナ)」を演じることに疲れ果てている時、あなたの心の楽屋では、出番を奪われた「永遠の少年」が現実を拒んでいたり、あるいは「英雄」が過度なプレッシャーにさらされているのかもしれません。どのキャラクターが今の自分を支配しているかを知ることで、意識的に他のキャストに出番を与え、心の調和を図ることができます。
個性化:最高の舞台を作り上げるために
ユングは、これらすべてのキャストを認め、誰一人排除することなく一つの舞台として統合していくプロセスを「個性化(自己実現)」と呼びました。光り輝く主役も、未熟な子供も、目を背けたくなる悪役も、すべてはあなたという物語を完結させるために必要な登場人物なのです。
4. まとめ:自分の中の「劇場」を観察しよう
私たちの心は、決して一色ではありません。
今日、あなたはどの仮面を被り、どのキャラクターに舞台を任せていたでしょうか。
まずは、日常の中で「お、今はトリックスターが出ているな」「今は永遠の少年が夢を見ているな」と観察することから始めてみてください。それが、あなただけの「人生という物語」をより豊かに、より自由に書き換えていく第一歩になります。
【参考】
C.G. ユング (著), Carl Gustav Jung (原名), 林 道義 (翻訳)「元型論〈増補改訂版〉」(1999)
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